半導体活況―機械に“熱風”工作機械・要素部品の受注急増
世界的に需給が逼迫(ひっぱく)し、新たな成長軌道である「スーパーサイクル」に突入したと言われる半導体。その熱い風は機械業界にも吹いている。半導体投資が活発化し、工作機械や機械要素部品などへの需要が急増。一方で、IT機器や自動車などとの半導体の奪い合いも懸念される。
「半導体製造装置メーカーからの引き合いが非常に強い」。DMG森精機の森雅彦社長は、半導体関連需要の旺盛ぶりを強調する。2020年12月期の受注額2797億円のうち電気・精密・半導体が占める比率は前期比7ポイント増の14%に大きく伸びた。子会社2社が開発する半導体向けのレーザースケールや自動検査装置も「絶好調で、しばらく大変忙しい」状態が続くと見込まれる。
オークマは「門型マシニングセンターや複合加工機から小型旋盤まで幅広い製品で引き合いが急増している。半導体関連向けではリーマン・ショック前に迫る活況」という。半導体製造装置の複数の部品サプライヤーから発注が集中し、コロナ禍に伴う休業を終了して増産対応をしている。
住友重機械工業は約110億円を投じて、半導体の製造工程で使われるイオン注入装置の新工場を愛媛県内に建設する。第5世代通信(5G)や人工知能(AI)の普及に向けて半導体市場が成長するとにらみ、生産能力を倍増。22年8月の稼働を目指す。米中貿易摩擦の影響が懸念されるものの、「最終的に半導体市場は伸びていく」とみている。
機械要素部品メーカーにも追い風が吹く。CKDは半導体製造装置に使われる電磁バルブの受注が好調だ。半導体向けが約3割を占め、空圧機器やセンサーを含む機器事業の20年10―12月期の売上高は248億円(前年同期比6・5%増)に拡大。21年1―3月期は248億円(同9・3%増)と、さらに伸びる見通しだ。春日井工場と、19年に完成した東北工場では一部で2直勤務を続けている。
日本トムソンも製造装置向けが好調な直動案内機器の増産を急ぐ。可能な限り早く、20年7―9月期比で少なくとも3―4割引き上げるとともに、さらなる供給量増加も視野に入れる。宮地茂樹社長は「生産が追いつかないほどの受注がある。大きな成長が見込める」と期待を隠さない。別の機械要素部品メーカーは「12月以降は中国をはじめ各地から受注が急増している」と指摘。少なくとも半年程度は需要が堅調に推移するとの見通しだ。
半導体関連需要が活況に沸く一方、「工作機械の生産に必要な部材が半導体製造装置に持って行かれている」(ソディックの古川健一社長)。ソディックでは生産に影響が出るほどではないものの、アクチュエーターなどが「足(調達期間)が長くなり始めている」という。
オークマは、工作機械のコンピューター数値制御(CNC)装置に使う半導体が「20年半ばから早めの調達に動いている」(広報担当者)。DMG森精機も工作機械用操作盤向けの半導体は「十分に確保できている」という。
現時点では各社とも調達面で生産に支障は出ていないようだ。ただ全体的な需要増に伴い、自動車やIT向けだけでなく機械装置に搭載する半導体も不足気味。急増する需要に供給が追いついていないとみられ、業界を超えた獲得競争が水面下で進んでいる様相だ。