住友電気工業 超硬合金切削工具
住友電気工業の産業素材事業は、祖業である銅線を細く伸ばす伸線の加工技術を今に受け継ぐ。伸線用の超硬合金工具から出発し人工ダイヤモンド、ダイヤに次ぎ硬い立方晶窒化ホウ素(CBN)など最先端の素材を早くから開発してきた。多様な産業素材の中でも、稼ぎ頭は超硬合金の切削工具。住友のシンボルである井桁(いげた)に由来する「イゲタロイ」のブランドで業界トップ級を走る。
切削工具部門(ハードメタル)はコロナ禍で売上高が2021年3月期に840億円と前期比9・6%減少したが、22年3月期に1023億円と同21・8%増加する見込み。東南アジアなどを除き、売上高の大半を占める海外や国内が持ち直す。素材事業を率いる常務は「伸び率は業界平均を上回ると思う」と手応えを示す。
住友電工の強みは素材からの一貫した開発戦略にある。切削工具もその典型で、硬いものを効率よく削る工具のもとになる冶金から力を入れてきた。「素材の善しあしが基礎になる」とぶれることはない。会長は「うちは全般に市場より技術を見過ぎる癖がある」と冷静ながら、世界一を目指す技術志向が成長の原動力になってきたのも間違いない。
産業素材とともに社歴を歩んできたが「これまでと同じでは確実に需要が減るだろう」と市場の激変を覚悟する。電動車が増えれば、切削工具を多く使うエンジンなどの機械加工が激減してしまうからだ。「切削工具事業は自動車にどっぷり依存していない」が、顧客の課題解決を指向する事業戦略を強める方向だ。
まだ機械加工は技能者の勘に頼りがち。そこで、抵抗値や音などのデータで善しあしや工具寿命を予測するなど新たな技術支援サービスの開発に注力する。工具のデータを基に加工を評価する手法で付加価値を高める。技術と市場の両面を見据え、変革期を勝ち進もうとしている。