工作機械にDXの波 組織づくりから商談・保守まで
工作機械メーカーによるデジタル変革(DX)の取り組みが急加速している。専任組織の設立から商談、アフターサービスまで変革の領域は幅広い。以前からの自動化ニーズの高まりに加え、コロナ禍で感染防止とビジネスの両立に向けた取り組みが後押しされたことも背景にある。工作機械市場の回復が続く中、デジタルの力が製品・技術の進化とともに、需要取り込みに向けた重要なカギとなりそうだ。(編集委員・土井俊、名古屋編集委員・村国哲也)
デジタルツイン専任 加工変位を察知・補正「未来工場」
出荷前の立ち会いを遠隔でできるジェイテクトの「リモート・トーク」
「デジタル時代のモノづくりサービスの基盤を作る」。オークマの家城淳社長は自社で取り組むDXの狙いについて、こう強調する。同社はユーザーへの遠隔支援やオンラインでの商談・立ち会いなどを強化する専任部署「ものづくりDXセンター」を2020年7月に新設。さらに、DX時代の会社のあるべき姿を検討するプロジェクトチームも始動し、23年度以降に全社改革を本格化する。
また同社はデジタル技術で高度化、知能化した未来型工場「ドリームサイト(DS)」を構築。19年8月に稼働したマシニングセンターの部品加工工場「DS3」(岐阜県可児市)では72時間連続の無人稼働も実現した。DS3では熱や振動での加工空間の変位を機械自身が察知・補正し、校正支援もする技術「3Dキャリブレーション」も1年以上かけて実証した。
オークマのマシニングセンター部品加工工場「DS3」
DMG森精機はデジタルツイン技術による工作機械のテスト加工を始めた。加工時の切削力や工具振動などの切削状態を、実機による加工と同じように確認できる。テスト加工時間の大幅短縮と、工具や消費電力の削減も実現する。工作機械の微妙な構造変化まで再現できるデジタルテスト加工は世界初という。専任組織「デジタルツイン加工技術グループ」を設置し、5軸・複合加工機のテスト加工を中心に実施している。
同社はこれまで、顧客との出荷前確認を遠隔で行う「デジタル立ち会い」や、展示施設をデジタル上で再現したショールームの開設に取り組んでいる。これらのデジタル施策を通じて、顧客の生産性向上や持続可能な社会への貢献につなげる。
ジェイテクトは情報通信技術(ICT)による業務の効率化を進める。ギアスカイビング加工機向けに、工具の特注などで2カ月以上かかった加工テストをコンピューター上で数分でできる技術「自動設計システム」を実用化した。また、出荷前のユーザーによる立ち会いを遠隔でできるスマートフォン用ツール「リモート・トーク」なども製品化している。
顧客の機械、継続的に進化 操作サポートにチャットボット
機械の高精度化や高速化が進む中、各社はデジタル技術を活用した製品力向上にも力を注ぐ。牧野フライス製作所の井上真一社長は「デジタルを使ってどのような付加価値を提供できるかが機械メーカーの勝負どころだ」と捉える。同社は、デジタル技術を使って顧客の機械を継続的に進化させる仕組みを提供する方針。機械が加工内容や生産形態に応じて変容する新商品コンセプト「e―Machine」を掲げ、第1弾として21年1月に5軸制御横型マシニングセンター「a800Z」を投入した。
牧野フライスの5軸制御横型マシニングセンター「a800Z」
ヤマザキマザックはデジタル技術を活用したユーザーへの遠隔支援サービス「マザックアイコネクト」を強化している。人工知能(AI)を採用したコンピューター数値制御(CNC)装置「マザトロール スムースAi(エーアイ)」を搭載する工作機械には、20年12月販売分から同サービスを3年間無料にした。さらに21年4月には、同社CNC装置の全ユーザー向けに一部サービスを無料化し、有料サービスの料金も引き下げた。
ユーザーの生産活動に対するデジタルサポート体制を拡充する動きもある。
三菱重工工作機械(滋賀県栗東市)は門型5面加工機の操作・保守に関する自動会話プログラム「お問い合わせチャットボット」を3月に始めた。ユーザーがスマートフォンやパソコンから問い合わせた内容に対してAIが回答する。今後は販売促進用とユーザー専用の各ポータルサイトも開設するほか、「顧客が撮影した映像を見ながら、当社がサポートするサービスなども試行している」(若林謙一社長)という。
DMG森精機はユーザー専用サイトを通じて、機械の修理依頼や部品注文などを受け付けるサービスを4月に始めた。アフターサービスの利便性向上とともに、迅速な修理復旧と顧客の生産性向上につなげる。
コロナ禍でウェブ展示会の開催が多くなる中、工作機械業界でもウェブ上で製品・技術を訴求する仕掛け作りが広がっている。
日本工作機械工業会(日工会)は、常設のウェブ展示場を構築する方向で検討している。会員企業の製品紹介やワークショップ開催など、さまざまな情報を閲覧できる場としての活用を想定する。
企業レベルでは、既に独自に展示会やショールームをウェブ対応する動きが拡大している。アマダは今後、営業・サービスに特化したウェブ展示場を設けるなどし「リアルとバーチャル両面で商品を訴求できる体制を作る」(磯部任社長)方針だ。
ニュースソース:日刊工業新聞(https://www.nikkan.co.jp/)