日進 難削材用エンドミル供給
日進は、ロケットや飛行機に使う部品の製造に必要なエンドミルなどの工具を製造・販売し、航空宇宙を事業の柱と位置付けて注力する。
ステンレスやチタンなどの難削材を加工できる工具を自社の優良な資産と捉え、新分野の開拓とともに自社のブランディングに活用する。人類が地上から宇宙へと活躍の場を広げる中、中小企業は新しいビジネスの可能性を探っている。
日進が航空宇宙産業向けに販売する難切削材用エンドミル「日進ファルコンエンドミル」は売上高全体の半分以上を占める。航空宇宙メーカーの下請け企業に販売した工具は、ロケットや飛行機のエンジン部品の加工に使われており、航空宇宙産業を下支えする。2025年7月期の売上高は18年同期比約2倍の2億円に伸びる見込み。ほぼ航空宇宙・防衛・エネルギー分野での積み上げによるものだ。尾野社長は「航空宇宙業界では40年前の工具を使っているケースもあり、中小企業でも参入し勝負できると思った。チャンスを生かし、業界に風穴を開けたい」と意気込む。
日進に入社した18年4月、尾野社長は「航空宇宙分野は伸びる」とみる一方、「良い自社製品があるのに強みを生かせていない」とブランディングの弱さを痛感していた。さらに同年11月の日本国際工作機械見本市(JIMTOF)に参加し、「このままではいけない」との思いを強くする。自社の強みを生かすため、難削材やマシニングセンターなどのキーワードをインターネットで検索し、国内の切削加工を手がける中小企業を訪問。その過程で航空宇宙分野への参入を模索し始めた。
だが道のりは険しかった。訪問先である航空宇宙関連企業からは「大手への納入実績はあるのか」と追い払われることもあった。それでも2次、3次と多くの下請けを訪問し、発注者からの道具指定などが少ない企業に工具を納入でき、採用が増えていった。実績を積み上げ、自社の工具のうわさが同業他社や商社に広がり、大手との商談にもつながっていった。尾野社長は「参入障壁が高い航空宇宙業界は中に入るまでは苦労するが、いったん認められれば仕事を取りやすくなる」と明かす。
専務になった20年からは「難削工具の日進」を企業イメージとして掲げ、ブランディングに取り組み始めた。尾野社長は「航空宇宙業界では大量の特殊合金が使われ、加工が難しい部品が多い。難削材に強い工具メーカーと印象付けられる」と自信を見せる。
一方、10年前と切削加工の条件が変わっていない企業もあり、尾野社長は製造業の成長速度の遅さを憂いている。高性能の工具を供給し、顧客の挑戦を後押ししたい考えだ。尾野社長は「日本の生産効率を上げる。成長速度が遅い今の日本の業界に『このままでいいのか』という問いを投げかけたい」と強調する。航空宇宙産業の拡大を製造業全体の底上げにつなげていく。
